すなわち、かつては長期的な電源計画、それに基づいた電源投資とその回収、需給調整(周波数の安定化や短時間の予備力の確保)は、垂直統合・地域独占の電気事業者が主体となって行っていた。需要側供給力の確保や環境価値の分別も、電気料金メニューを作ったり、需要家と相対で取引するなどの方法でもっとシンプルに対応できたはずのものである。さらに、かつての垂直統合・地域独占の体制では、基幹系送電線の建設と電源の新設は、一体のものとして計画することで、効率的な送電線の設備投資ができたが、これも出来なくなった。
以上の「市場」の導入を含めて、電力システムについては毎年のようにその制度が改変されている。以下に年表で示そう(表3)
表3 電力システム改革の年表
年 マイルストーン(制度・市場) 区分/目的 備考・典拠
1995 IPP(特定電気事業) 解禁 競争導入の第1段階(発電) 電気事業法改正(1995年3月施行)
2000 小売自由化①(特高 ≥ 2 MW) 大口需要に競争導入 電気事業法再改正・料金選択制開始
2003 JEPX 設立 卸電力スポット市場創設 2005年4月取引開始
2004 (2005実施) 小売自由化②(高圧 ≥ 50 kW) 自由化範囲拡大 需要の約64 %が自由化対象に
2012 固定価格買取制度 (FIT) 開始 再エネ導入促進 費用は賦課金で転嫁
2013 電力システム改革基本方針(3段階)決定 広域運用・小売全面自由化・発送電分離 閣議決定(4月)
2015 OCCTO 発足 広域系統運用機関 第1段階:需給調整全体最適化
2016.4 小売全面自由化(低圧) 家庭・小規模需要が選択可 参入小売 200社超へ
2018.5 非化石価値取引市場開始 環境価値の顕在化 第1回オークション
2019.4 ベースロード電源市場創設 旧一電保有電源の供出 原子力・大規模水力アクセス格差是正
2020.4 送配電の法的分離 発送配電分離の完了 旧一般電気事業者をHD体制へ
2020.9 容量市場・第1回メインオークション 供給力(kW)確保 FY2024受渡分、落札総額1.7兆円
2021.4 需給調整市場(24時間前,1日前)開始 周波数制御・調整力取引 Phase 1 商品運用
2022.4 需給調整市場(短周期RT)拡充 5分・15分商品追加 Phase 2・3導入
2023.4 容量市場拠出金の請求開始 料金への本格転嫁 家庭負担≈0.5円/kWh
2024.4 長期脱炭素電源オークション始動 次世代原子力・CCUS火力等の確保 CfD 型20年固定収入
2025 (予定) 中長期相対取引市場・予備電源制度 価格ヘッジ/非常時バックアップ 経産省WGで制度設計中
2004年までは、自由化対象範囲を徐々に拡大してきたということであり、それ自体は問題ではない。だが、2011年以降については、何か問題が発生したら、それに応急的に対処するための、新しい市場の新設や制度の改変を行ってきた。