当初、電力市場自由化とは、「垂直統合・地域独占の電気事業を垂直分離し、自由な参入を可能にすれば、価格メカニズムが機能して電力市場は自然と成長する」、という思想で開始されたが、現実には多様な問題が露呈し、それに対処するためとして新しい市場が次々に設けられていった。
表2 電力システムにおける「市場」の乱立
創設年 市場・制度 導入の背景・理由
2017 非化石価値取引市場 ⬥小売全面自由化で参入した新電力は原子力・水力など非化石属性を持つ電気を確保できず、2030年度44 %以上という〈高度化法〉目標を達成できなかった。⬥卸市場では化石・非化石が混在し“環境価値が埋没”するため、属性証書だけを分離して売買できる場を創設。
2017 ネガワット(DR)取引市場 ⬥発電側の調整力が減る一方、再エネ出力変動で需給バランス維持が難化。⬥需要側の“仮想発電所”を容量(kW)として扱い、米国並みに最大需要の6 %を確保することを目標に制度化。
2019 ベースロード市場 ⬥垂直統合解体後、原子力・大規模水力など“旧一電”保有の安価なベースロード電源へのアクセス格差が顕在化。⬥新電力に核電/水力を一定量強制供出させ「イコールフッティング」を図る場。
2020 容量市場 ⬥自由化で長期固定収入が失われた火力の更新投資が止まり、“2020年代後半に予備率が危険水域”との試算。⬥4 年前にオークションでkW価値を確定し、将来設備投資の資金繰りを可能にする仕組み。
2021–24 需給調整市場 ⬥電力の需給バランスを維持し周波数を安定させるための「調整力」を取引する全国統一の市場。入札によって調達される調整力の商品区分は周波数制御の応動速度と持続時間によって細分化されている。
2024 長期脱炭素電源オークション ⬥再エネ、系統用蓄電、低炭素火力・原子力発電など、脱炭素設備への巨額初期投資を「20 年固定の容量収入」で後押しし、2050 年カーボンニュートラル達成を下支えする。
以上の新市場の大半は、垂直統合・地域独占では社内の計画・調整機能で吸収されていたり、もっとシンプルな解決策があったはずの政策的要請を、事後的に補完すべく制度導入されたものばかりである。