地上の望遠鏡と探査機の写真を並べて比べると、まるで星が背景の星空の前を動いているかのように、はっきりと位置が違って見えました。
こうして観測された視差のデータを使って、研究者たちは三角測量という方法で探査機の位置を計算しました。
三角測量とは、離れた2つの地点からある対象物を観測したときの角度の差をもとに、その対象物や観測地点の位置を割り出す方法です。
その結果、探査機ニューホライズンズが実際にいる場所と、星の位置を頼りに計算した場所のズレ(誤差)は、約0.44天文単位(約6600万km)となりました。
0.44天文単位とは、太陽と地球との距離(1天文単位=約1億4960万km)の半分弱に相当します。
また、太陽系の中心(太陽系重心)から探査機までの距離も、約0.27天文単位(約4000万キロメートル)の誤差範囲で求めることができました。
また、探査機が計算した方向(角度)についても、実際の方向とのズレは約0.4度という非常に小さいものでした。
満月の見かけの直径が約0.5度ですから、それより少ない角度の誤差です。
これは宇宙空間のスケールでは決して完璧な精度とは言えませんが、地球から遠く離れた探査機が、自分自身の位置を星の視差のみを頼りに測定した史上初めての成功例です。
さらに研究者たちは面白いことを発見しました。
多くの星を観測して位置を割り出すより、むしろ「最も近い2つの星」だけに注目した方が測位の精度が高くなることが分かったのです。
直感的には、多くの星を参照したほうが正確な気がしますが、実際には遠い星ほど視差が小さすぎて測定誤差が大きくなり、かえって精度を下げてしまいます。
最も近く視差の大きな星を厳選し、それを正確に測る方がよほど効果的だったという意外な結果でした。
実際、今回の実験でニューホライズンズが選んだプロキシマ・ケンタウリとウルフ359という「たった2つの星」が、将来の恒星間航法に最適な基準になる可能性が示唆されたのです。