自分自身の位置を「星の視差だけ」で割り出せるのでしょうか?

この謎を解明するために研究者たちが最初に行ったのは、宇宙探査機ニューホライズンズの位置を利用した「巨大な目の幅」を確保することでした。

私たち人間が目を交互に閉じて指を見たときに、指が左右に動くように感じるのと同じ効果を、宇宙の規模で再現するためです。

人間の両目の距離はせいぜい数センチですが、ニューホライズンズは地球から約47.1天文単位(約70億キロメートル)という巨大な「目の幅」を持っていました。

これだけ離れた2つの地点から同時に星を見ることで、星の位置のズレ(視差)が明確に観測できるのではないかと考えたのです。

答えを得るため研究者たちは、まず地球に最も近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」と、6番目に近い「ウルフ359」という星を選びました。

プロキシマ・ケンタウリは地球から約4.246光年離れた赤色矮星で、ウルフ359も約7.9光年離れた赤色矮星です。

どちらも地球に近いため、視差が大きく現れると予測されました。

そして2020年4月22〜23日にかけて、ニューホライズンズが宇宙空間からこれらの星の画像を撮影しました。

同じタイミングで地球上の望遠鏡も、まったく同じ2つの星の写真を撮影します。

これにより、同時刻の星の見え方を「地球から見た場合」と「探査機から見た場合」で直接比較できるようにしたのです。

その結果はまさに予想通り、いや予想を上回るほど明確でした。

探査機が撮影した2つの星は、地球から見た位置と明らかにずれて写っていました。

そのズレを具体的な数値にするとプロキシマ・ケンタウリでは約32.4秒角、ウルフ359では約15.7秒角というものでした。

秒角とは何か?

「秒角(びょうかく)」という言葉は、天文学で星の位置や距離を表現するときによく使われる単位です。でも、この秒角という言葉は普段あまり耳にしないため、具体的にどれくらいの角度なのか、なかなかイメージしづらいかもしれません。まず、「1度」といえば身近にある角度の単位ですね。時計の文字盤を例にすると、時計の中心から12時の位置と1時の位置の間はちょうど30度です。この1度という角度をさらに細かく分けていくと、「分角(ふんかく)」という単位になります。そして、その1分角をさらに細かく60個に分けたのが「秒角」です。つまり、「1秒角」というのは、「1度の3600分の1」という非常に小さな小さな角度になります。これがどれくらい小さいのか、具体的な例で考えてみましょう。例えば、地上から見える月の見かけの大きさ(満月の直径)は、だいたい0.5度(約30分角)ほどです。月を3600個に細かく分割した、そのうちのたった1つが「1秒角」というわけです。このように、「秒角」とは、星の位置の非常に微妙なズレを表すのに適した極めて小さな角度なのです。