国家の指導者の意図を完全に理解することはできませんが、ウォルト氏は、ウクライナ危機の事例を時系列的に分析することで、プーチンが不安から攻撃的な行動にでたと判断しています。これが正しいとするならば、ウクライナ危機を解決するには、ロシアに対する何らかの「宥和」が求められるということです。

宥和政策は「ミュンヘンの再来はこめんだ」という単純な「歴史の教訓」による推論から否定されることが多いようですが、「スパイラル・モデル」の状況においては、紛争の鎮静化や戦争へのエスカレーションの防止に効果が見込めます。

残念ながら、ウクライナ危機は戦争へと発展してしまいました。このことから、われわれは適切な教訓を引き出すべきです。それは、恐怖や不安に駆られて攻撃的になっている相手には宥和で対応すべき、ということです。ウォルト氏が強調するように、「(ウクライナをめぐる)この全体の不幸な物語における最大の悲劇的要素は、それが回避可能だった」ということです。

しかし、われわれがこの教訓を正しく学んでいるとは思えません。わたしは、ロシアと妥協することなく「リベラル国際秩序」を守り抜くべきだと叫んだ識者が、自らの主張を撤回したり、その言説を修正したりした事実を知りません。

そうであるならば、ウォルト氏の不吉な予言、すなわち「アメリカの政策立案者はリベラリズムの驕りを抑え、リアリズムの不快だが死活的な教訓を十分に理解するまで、将来において同じような危機によろよろと入り込んでいきそうだ」は充足することになるでしょう。