例えば、暗闇で心拍数が高まったり、少し汗をかいたりするだけでも、脳は「何か危険なものが近くにいる」と誤解してしまうのです。

つまり、特別な刺激がない環境で自分自身が不安になると、その内側の不安を外側の存在として解釈してしまう傾向があるのです。

こうして生じた「誰かがいる」という感覚はさらに恐怖心を煽り、身体の強張りや鼓動の速まりといった生理反応をいっそう増幅させます。

すると脳は「やはり近くに何かいる」と一層信じ込む……という悪循環(フィードバックループ)が形成され、幽霊の存在感覚が確固たるものになり得るのです。

今回の研究はまた、「幽霊の気配」を感じる現象が人類の進化の副産物である可能性も示唆しています。

進化的に見ると、見えない危険を感じ取ることで、安全性が高まるためです。

物陰に捕食者や敵が潜んでいるリスクが少しでもあるなら、「気のせい」だとして無警戒でいるよりも、「何かいるかも」と身構えて用心したほうが生き延びるチャンスは高まります。

こうした「見えない脅威にも敏感に反応する」バイアス(認知的な偏り)は、人類の遠い祖先がサバンナで捕食者と渡り合っていた頃から私たちの脳に刷り込まれてきたのかもしれません。

そのため、現代の私たちも不安や心細さを感じる場面で、実際には誰もいなくてもつい「何か」がいると感じてしまうのだと考えられます。

こうした脳の“用心深さ”のおかげで、世界各地・あらゆる時代の人々が幽霊の存在を信じたり、見えない何者かの気配を語ったりする現象につながっているのかもしれません。

「暗い静かな場所で一人きりのとき、見えない何者かの存在を感じて恐怖を覚えることは、決して奇妙でも病的でもありません」とネナダロヴァ氏は強調します。

背後で誰かがうろついているような気配や、茂みの陰から誰かに見られている感じ、地下室の暗がりに誰かが隠れているように思えてしまうのは、私たちの脳が曖昧で不確かな状況に対処するために示す自然な反応なのです。