これは文化的・社会的な思い込みが「気配の内容」(例えば身体に触れてくる幽霊なのか、ただ見ているだけなのか)に影響を与える可能性を示唆しますが、肝心の「気配そのものを感じる」という現象は、不確かさ(不安)の度合いが最も重要な要素でしたが、社会的予期(思い込み)も触覚的な気配を強める効果を一部の参加者に与えていました。
さらに研究チームは、参加者のパーソナリティ(性格特性)がこの現象に影響するかも調べました。
その結果、2つの特性が注目されました。
最も興味深かったのは、空想傾向が高い人は逆に「幽霊の気配」を感じにくいという相反する結果も得られました。
特に「視覚的な気配」(何か姿のようなものを感じる)は顕著に少なく、触覚的な気配すら弱まる傾向があったのです。
ネナダロヴァ氏は「予想に反して、空想好きな人は一人で何もない状況に置かれると空想の世界に没頭してしまい、不安を感じるヒマがなくなるために幽霊の存在感覚を抱きにくいのかもしれない」と分析しています。
空想は幽霊を殺すのかもしれません。
一方で「想像や暗示にどれだけ影響を受けやすいか」という素質が高い人ほど、実験中に「誰かいる気配」を感じたと報告する率が高く、特に先述の「不確かさ」が大きい状況ではその傾向が顕著でした。
幽霊の気配は「進化が生んだ錯覚」だった

今回の研究によって、「暗闇や孤独の中で誰かがいる気配を感じる現象」は、幽霊や超常現象のせいではなく、私たちの脳が持つ「予測処理」という正常な機能が原因である可能性が示されました。
人の脳は常に周囲の環境を無意識に予測していますが、暗く静かな状況になると、目や耳からの情報が極端に少なくなります。
すると脳は、少ない情報を補おうとして、自分の過去の経験や感情を元に、現実にはない「存在」を作り上げてしまうことがあります。