このように、参加者に「誰かがいるかも」という思い込みを与えることで、社会的な予測がどのように影響するかを調べたのです。

実験が終わった後、研究者たちは参加者にアンケートやインタビューを行い、実験中に「不安や不確かさを感じた瞬間」や「奇妙な感覚」、および「誰かが近くにいるように感じた」かどうかなどを報告しました。

また実験中、皮膚の発汗変化を測定する装置により皮膚電気反応(発汗に伴う電気伝導度の変化)を記録し、生理的な覚醒度=緊張やストレスの高まりをモニタリングしました。

結果、最もはっきりとした傾向として浮かび上がったのは「内的な不確かさ」と「存在感覚」の関係でした。

自己申告による不安感が強かった人や、生理指標(皮膚電気反応)から見て覚醒度が高かった人ほど、「誰かが近くにいるように感じた」と報告する傾向が顕著だったのです。

特に、視覚・聴覚が遮断されている状況では、わずかな身体感覚の変化や曖昧な感情の動きを「何者かが傍にいる証拠だ」と脳が解釈してしまいやすく、視覚や聴覚に頼れないぶん触覚や漠然とした「気配」によって他者の存在を感じ取ったというケースが多く報告されました。

つまり、暗闇と静寂によって周囲の情報が得られないと、人は自分の体の内側から生じる違和感やかすかな感覚さえも「外部に誰かがいるサインだ」と受け取ってしまうようなのです。

一方、実験前に与えた「誰か入ってくるかも」という刷り込み(社会的予期)については、意外にも全体的な効果は限定的でした。

この暗示を与えられたグループのほうが「あからさまに幽霊の気配を感じやすくなった」ということはなく、報告された「存在感覚」の頻度や強度に有意な差は見られなかったのです。

ただし細かく分析すると、刷り込みによって「誰か来るかもしれない」と頭に植え付けられていた参加者は、特に身体が緊張状態(生理的覚醒度が高い状態)にあった場合に限り、「何者かに触れられたように感じる」という報告がやや増える傾向がありました。