――セミもそうでしたが、共生細菌が宿主に必要な栄養を作るというのは昆虫の世界ではよくあるんですか?

森山:はい、相利共生では一番よく見られるタイプです。

さっき話したトコジラミも血液という普通の昆虫なら餌にしにくいものを利用しています。

これも彼らの中に棲むボルバキア(Wolbachia)という共生細菌が関係しています。餌が血液だけだと、ビタミンB類が不足してしまうんです。でも、トコジラミの中ではボルバキアがアミノ酸などの栄養素をもらう代わりに、宿主にビタミンB類を作ってあげるという働きをしています。

――ボルバキアって宿主をオスからメスに性転換させたりオスを殺したりするやつですよね? 共生というより寄生のイメージが強いですが。

森山:トコジラミの場合、寄生性だったボルバキアのうち、たまたま近くにいたビタミンBを合成できる別の微生物の遺伝子を取り込めた者が共生細菌になったと考えられています。これは進化の観点から見るとあり得なくはないが、かなり確率は低くて非常に珍しいケースだったと思います。

しかしこの共生が、カメムシの仲間でありながら、吸血性という特殊なトコジラミの食性を支えていると考えられます。

――先程のセミの体にも共生細菌のための専用器官があると話されていましたが、共生細菌は生物の進化の仕方にまで関わっているんですね。しかし細菌自体は遺伝子で引き継ぐわけにいかないし、どうやって後世に引き継いでいるんでしょうか?

昆虫と共生細菌はお互いになくてはならない相棒

――細菌は遺伝子で伝えるわけにはいかないですよね。どうやって昆虫たちは共生細菌を次世代に引き継ぐんですか?

森山:例えばマルカメムシは、卵と一緒に共生細菌を詰め込んだ黒いカプセルを産むんです。それを孵化した幼虫がチューッと吸って、必要な共生細菌を取り込む仕組みを持ってます。

黒いカプセルから共生細菌を吸うマルカメムシの幼虫/Credit:産業技術総合研究所