――生き残り戦略の違いですね。もはやカメムシと共生細菌はどちらかが欠けても生きていけないんですか?

森山:そうなんです。例えばマルカメムシの場合は、共生細菌が餌に不足する必須アミノ酸を作ってくれるので、共生細菌がいないとちっちゃい幼虫のまま成長できなくなります。

カメムシは共生細菌がいれば足りない栄養を補ってくれるから、他の虫が食べないような変わった餌だけを食べるようになる。

細菌の方も、共生し始めの時はカメムシの体外でも生きていけたと思うんですけど、ずっとカメムシの体内でぬくぬく暮らすうちに、外の厳しい環境で暮らすための遺伝子が失われて、自分だけでは生きていけなくなってしまいます。

こうやってお互いがどんどん依存するようになって、最終的にはもうどっちかがいないと生きていけない強い共生関係が築かれます。そこまで強固な関係は、必須相利共生と呼ばれます。

――まさに運命共同体なんですね。進化って環境に合わせて変化していくものって印象だったので、細菌の影響でこんなに生物が変化してしまったというのは驚きですね。まだまだ謎がありそうです。

森山:そうですね。最初に共生が成り立つところがどうなっていたかは今後研究していかなきゃいけないところだと思ってます。

多分もともとは、近くにいる雑多な細菌を毎世代自分で探して吸っていたんじゃないかと思います。それがいつの間にかお母さんが大事な細菌だけを子供に受け渡すようになったり、カプセルの中に詰めて渡してくれるようになったから、今のような強固な共生関係になったんではないかと考えています。

――進化の過程にはどんな秘密が隠されているのか、興味が尽きませんね。

本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。虫はあまり好きじゃないという人にも、この記事をきっかけに虫に興味を持ってもらえたら嬉しいですね。

森山:自分もそうだったんですけど、何も知らずに虫を毛嫌いしてる人、何も知らない故に恐怖感を持っちゃっている人って多いと思うんです。でも実はそこを一歩乗り越えると、綺麗な虫とか、面白い行動をする虫とか、変わった生き様の虫とか、本当にいろんな昆虫がいて、結構楽しい世界が広がっているんじゃないかなと感じています。