――最初から土の中で孵化しているんだと思っていました。なんでわざわざ木の中に産むんですか?

森山:土の中って雑菌や卵を食べちゃう天敵が多いんですよね。木の中だと、木が防御壁になって外敵から身を守れるので選んでるんじゃないかなと思ってます。

――前から疑問だったんですけど、そもそもなんで何年間も土の中で過ごすんですか?

森山:そこがセミの興味深い点で、植物には栄養を運ぶ師管と水を吸い上げる道管があるんですが、セミは植物の道管液のほうを餌にする珍しい昆虫なんです。幼虫は植物の根っこの道管液を吸って成長しているんですが、これはほぼ水分で栄養分がごくわずかしかないから、大きくなるのに非常に時間がかかると考えられてます。

――そう考えるといくら時間が掛かるとはいえほぼ水分の餌だけで、あんなに大きな昆虫に成長できるのが不思議ですね。

森山:そこに我々の研究している共生微生物が関わっていると考えられています。

最近、人間でも腸内細菌の存在が注目されていますが、昆虫の体内にも共生している微生物がいて、どういう餌を利用できるかというところに深く関わっているんです。

セミの場合は腸内ではなく、お腹の中にブドウみたいなつぶつぶの特別な組織(共生器官)を持っていて、その中に微生物を飼っています。この微生物が、道管液の中に微量に含まれているアミノ酸などの栄養成分を別の足りない栄養素に変えてくれることでセミは成長できると考えられています。

アブラゼミの共生器官。内側(赤色)が共生細菌、外側(黄色)が共生真菌、白色の丸いものが宿主昆虫の細胞核/Credit:産業技術総合研究所

――わざわざ微生物を飼うための器官を身体の中に持っているんですか!? それはすごいですね。セミが持ってる微生物は1種類だけなんですか?

森山:セミの共生器官は二層構造になってて、そこに2種類の共生細菌がいることが知られていました。

ただ、アブラゼミなどいくつかのセミでは、内側にいるのは同じ細菌なんだけど、外側にいるのは真菌だったんです。何で元々は細菌がいたのに真菌に置き換わったのか。実は、遺伝子を調べたところ、この真菌は冬虫夏草の仲間であるとわかったんです。