(※リン酸化タウタンパク質の血中濃度はアルツハイマー病患者が3.68 ± 1.75 pg/mLに対し新生児は10.19 ± 3.92 pg/mLにも達していました。なお健康な若年成人(18~25歳)では1.33 ± 0.69 pg/mLで、健康な高齢成人(70歳以上)では1.78 ± 1.31 pg/mLとなりました。)

さらに調査を進めると、この傾向は予定より早く生まれた赤ちゃんほど強く、より早産で生まれた赤ちゃんほどリン酸化タウタンパク質の濃度が高いという傾向が明らかになりました。

しかし、この値は出生後から徐々に低下を始め、生後3〜4か月も経つ頃には若い成人と同じくらいの低いレベルに落ち着いていました。

健康な10代以降の成人の間では、このタンパク質の量はずっと低いまま安定し、再び高くなるのはアルツハイマー病を発症した高齢者になってからでした。

しかし、驚くことに、そのアルツハイマー病患者でさえも、新生児に見られた「桁外れな高濃度」には全く及ばなかったのです。

つまり、人は生まれた瞬間と人生の晩年というまったく正反対の時期にこのリン酸化タウタンパク質が急上昇し、その間の健康な人生の大部分では非常に低いレベルで維持されるという、はっきりとしたU字型のパターンが浮かび上がったのでした。

赤ちゃんの脳に隠された『アルツハイマー病攻略法』

赤ちゃんの脳に隠された『アルツハイマー病攻略法』
赤ちゃんの脳に隠された『アルツハイマー病攻略法』 / Credit:Canva

今回の研究によって、「アルツハイマー病の目印として恐れられてきたリン酸化タウタンパク質が、実は生まれたばかりの赤ちゃんの脳にとっては必要不可欠な存在である可能性」が示されました。

これまでは、リン酸化タウタンパク質が脳に存在することは悪い兆候と考えられていましたが、この研究でまったく別の側面が明らかになったのです。

つまり赤ちゃんの脳では、このリン酸化タウタンパク質は神経細胞の成長や新しい神経回路を築くために役立ち、正常な脳の発達を助けているというのです。