これまでアルツハイマー病では「アミロイドβ」という別のタンパク質が先に蓄積し、その影響でリン酸化タウタンパク質の異常が生じると考えられてきました。

ところが新生児にはアミロイドβが全く蓄積していないにもかかわらず、リン酸化タウタンパク質が極めて高いレベルで存在していることから、これまでのアミロイドβを起点とする考え方だけでは説明できない新たなメカニズムが示唆されたのです。

こうした結果から、リン酸化タウタンパク質の血液検査が臨床現場で普及しつつある中、「単に数値が高ければ悪い」という単純な判断を見直す必要性も指摘されています。

実際、血中リン酸化タウタンパク質検査は米国FDAにより既に承認されており、乳幼児期の正常な脳の発達過程としてこの数値が高くなるケースもあることを、医療関係者や研究者は認識しておく必要があります。

今回の発見は、赤ちゃんの脳に秘められた謎と可能性を新たに示しました。

年齢を重ねれば脳を傷つけることになる分子が、赤ちゃんにとっては脳の成長に欠かせない存在であるという意外な事実は、私たちが「成長」と「老化」という生命の本質について考え直す大きなきっかけを与えてくれるでしょう。

研究者たちは今後、この赤ちゃんの脳が持つ不思議な防御のメカニズムをさらに解明し、将来的にはアルツハイマー病をはじめとするさまざまな認知症への新たな治療法や予防策を生み出すことを期待しています。

全ての画像を見る

元論文

The potential dual role of tau phosphorylation: plasma phosphorylated-tau217 in newborns and Alzheimer’s disease
https://doi.org/10.1093/braincomms/fcaf221

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。