一つひとつの変化はごく「ささやかな遺伝子頻度のずれ」に過ぎませんが、それが積み重なったことで若木世代全体としてより高い耐性遺伝子のスコアを示したのです。
(※全ゲノム解析の結果、ゲノム中の一塩基だけが変化した小さな変異(SNP)が7985箇所存在することが示されました。)
言い換えれば、森に自然更新(実生からの再生)した新世代のトネリコは、病気流行前から生えていた古い世代よりも遺伝的に病原菌へ強く抵抗できる傾向が確認されました。
これは自然選択が働いた痕跡にほかなりません。
ゲノム解析を用いたシミュレーションモデルによる推定では、新世代苗木の約13%が淘汰されるほどの強い選択が働いたと示されました。
研究チームはこの現象を弱い個体は姿を消し、最も適応した者のみが生き残る(適者生存)という進化の過程が目の前で進行しているという『適者生存』のプロセスにあたると指摘しています。
また、この進化は何世代もかかるのではなく、「たった一世代」という非常に短期間で数千もの遺伝子が同時に小さく変化することで実現しているということも明らかになりました。
こうして、トネリコの森は自らの遺伝子を駆使して、病気という危機に立ち向かっていることが明確になったのです。
しかし「たった一世代」で数千の遺伝子が変異するとはどういうことなのでしょうか?
進化の教科書が現実になった—科学者が目撃した「適者生存」の瞬間

今回の研究によって、「トネリコの木が病気の脅威に対して自ら進化し、耐性を獲得していること」が初めて実際の自然環境で明確に示されました。
進化というと、数万年や数十万年という途方もない時間がかかる印象を持つかもしれませんが、今回の研究で明らかになった進化は、わずか一世代という短期間で起きました。
ダーウィンが「適者生存」という概念を提唱して以来、生物が環境の変化に適応するためには「少数の大きな遺伝子変化が起きる」場合と、「多数の小さな遺伝子変化が積み重なる」場合があると言われてきましたが、自然界で後者をはっきりと観察できた例はほとんどありませんでした。