こう書くとなんだかインチキのように思えますが、集団として病気に強い遺伝子を持つ方向に「たった一世代」でシフトし、その変化に数千もの遺伝子が関連していたという事実は決して小さくありません。そしてこの集団レベルの遺伝子の変化もダーウィンの言う「自然選択」に立派に当てはまります。
これまで理論上の仮説だった「ポリジェニック(多遺伝子)適応」を、野生の環境で実際に捉えることができたこの研究は、進化生物学の教科書に載るほどの重要な成果だと言えます。
研究者たち自身も「進化の教科書には動物の体のサイズのような特徴が自然選択によって変わる例が載っているが、それを実際にDNAレベルで示すことは非常に難しかった。私たちはそれを初めて実証できた」と語っています。
今回捉えられた現象は、まさに「生きた進化」を目の当たりにした瞬間だったのです。
なぜトネリコの木たちはここまで短期間で進化できたのか?
トネリコの木たちが、これほどまで短期間(わずか1世代)で進化できた理由は、先に述べた「ポリジェニック適応」という進化の方法に起因します。この方法は多数の遺伝子がそれぞれほんの少しずつ変化することで、集団全体として短期間に大きな変化を実現します。これは一つの個体が劇的に新しい特徴を獲得するというよりも、すでに集団内に存在している多様な遺伝子の中で、有利なものが急速に広まっていくことを指します。一つひとつの遺伝子変異の変化量は極めて小さくても、それらが数千という多数の遺伝子座で同時に起きたため、トネリコの集団はわずか一世代という短期間で、環境変化に適応できる強力な進化を遂げることができたのです。
今回のトネリコの例は、こうした多数の遺伝子による小さな変化が集団レベルで積み重なり、短期間で適応が成立するという現象を、自然環境で初めて実証した貴重な事例となりました。
また、この研究は森林保全の観点からも大きな希望を与えています。