トネリコは、同じヨーロッパで数十年前に流行したオランダ立枯病で壊滅的な被害を受けたニレ(Elm)とは異なる運命を辿る可能性が出てきました。

ニレは外来の病気に耐えることができず、ヨーロッパ中で次々と枯れていきました。

しかし、トネリコはニレとは異なり、毎年大量の種をつけて若い苗木がたくさん生まれます。

そのため病気に弱い苗木は淘汰されやすく、逆に耐性を持つ苗木が生き残って次の世代を作っていくことができます。

今回の結果は、トネリコがこの病気による危機を自力で乗り越えつつあることを示しています。

とはいえ、楽観視ばかりはできません。

自然選択による進化はすぐに完璧な耐性を作り出すわけではなく、一部の重要な遺伝子変異はまだ森の中に不足している可能性があるからです。

このため、自然の進化だけに任せておくと、進化のスピードが病気の広がるスピードに追いつけず、トネリコがさらに激減する恐れも残っています。

こうした状況を踏まえ、研究者たちは人間による支援の重要性を強調しています。

例えば、病気に強いトネリコを人工的に選抜して交配させたり、東アジア原産で病気に強いトネリコの近縁種と交配して遺伝子を導入したりする方法が提案されています。

さらに将来的にはゲノム編集技術を使って耐性遺伝子を強化する方法も検討されています。

また森林の管理方法も重要で、病気が見つかったトネリコを即座に大量伐採するのではなく、できるだけ耐性のありそうな個体を選び、生き残らせるよう配慮する必要があります。

病気がゆっくりと広がる間に生き残った木が次の世代の種を作れば、より病気に強い新たな世代の森が育っていく可能性があるのです。

研究者の一人、ケアリー・メザリンダム博士は、「自然選択だけで十分な耐性が得られるかはまだ分からない。人間が積極的に介入することで進化の速度を高める必要がある」と述べています。

病気という大きな危機にさらされながらも、トネリコは次世代に命をつなぎ、自らの遺伝子を使って進化という道を歩みはじめています。