専門家の予測によれば、放置すれば全体の約85%が枯死する恐れもあるという深刻さです。
この病気に対して「完全な免疫」をもつトネリコはほぼ見つかっておらず、ヨーロッパの森は今、大規模な危機を迎えています。
しかし、わずかな希望も存在します。
森を調べていくと、ごく少数ですが、この病気に対して明らかに「強い」個体が見つかったのです。
植林地での過去の調査でも、病気にかかりやすい木と、そうでない木の間には遺伝的な違いがあることが知られていました。
ただ、そのような耐性をもった個体は非常に稀で、多くのトネリコにとって、この病気は依然として致命的な脅威であり続けています。
そこで科学者たちは「もしかしたら、トネリコ自身が進化して、この危機に立ち向かっているのではないか?」と疑問を抱き、調査することにしました。
果たして、森のトネリコたちは本当に自ら進化し、この病気に打ち勝とうとしていたのでしょうか?
木々の遺伝子が今まさに動いている

森のトネリコたちは本当に進化していたのか?
この謎を解明するため研究者たちはまず、イギリス・サリー州にあるマーデンパークという古い森に向かいました。
この森には、病気が発生する以前から育っていた古い世代のトネリコと、病気が拡がった後に新しく生えてきた若い世代のトネリコが混在していました。
研究チームは、両方の世代のトネリコから葉や枝などのサンプルを採取してDNAを抽出し、ゲノム解析を行いました。
特に注目したのは、過去の研究で「病気への強さ」に関係すると指摘されていた遺伝子の小さな変異でした。
トネリコのゲノム中には、耐病性を高める方向に働く変異や、逆に感受性を高めてしまう変異が数千箇所もあることが知られており、研究者らはそれらの部位(遺伝子座)のDNA配列の違いに着目したのです。
結果、若い世代の木では、それら有用な変異(耐性を高める変異)の頻度が、親世代に比べて着実に上昇していることがわかりました。