発足時は64%あった内閣支持率がすぐ落ちた一因は、任命拒否問題だったことは、記憶されてよい。さらに署名や声明のかたちでも明示された世論が、政府の姿勢を「変えた」といえるのではないか。
文庫版、89頁 初出『毎日新聞』2021年6月19日
第一に、①政府の姿勢が「変わらなかった」ことは、この度の法案への本人を含む反対ダーぶりが立証している。より大きな問題は、②当時すでに判明していた「任命拒否と改革の容認」への世論の転換を隠蔽し、問題発覚当初の内閣支持率の下落に話をすり替えていることだ。
加藤氏の叙述は『毎日新聞』の連載が初出だから、同紙の調査で任命拒否を可とする意見が多数派になった事実を、彼女が知らないはずはない。さすがに「反対こそが民意だ」とはもう書けないので、抗議に勢いがあった時点の事象(支持率低下)を持ち出して、印象操作をしたのだろう。
いわゆるチェリー・ピッキングだが、歴史学者も自分のこととなると「けっこう歴史修正主義するんだね」という後味を残した感は、否めない。ふつうに考えてそれは、学問の信用を落とす。
加藤氏自身によると、今回の学術会議の改革は「学問の自由」を毀損するらしいが、だとするとさらなる疑問が湧く。そんな帰結に陥るなら、③そもそも騒がずに元の制度を維持した方が賢明だったのではなかろうか?
当時の菅義偉首相や、彼が長年仕えた安倍晋三元首相の「ファン」であるなら、名指しで任命を拒否られたらショックだろう。しかし、安倍・菅政治にずっと反対してきた人が、政府の側から「あなたとは一緒に働きたくない」と言われた程度で、なにをイキリ立つ必要があったのか?