ちなみに、部屋に鍵はかかっていなかったという。したがって、「逃げようと思えば逃げられた」のである。しかし、なすびは逃げなかった。逃げなかったからと言って、「本人の積極的な同意があった」とは言えない、というのが、「MeToo」などの報道を通して、私たちが学んだことである。

なすびと制作者側との関係

ティトリー監督の「ザ・コンテスタント」には現在のなすび、彼の家族、そして当時の番組制作者、事務所の職員などが登場し、当時と現在の心境や狙いを語る。

ここで私たちははじめて、いかに家族が裸でテレビに出るなすびについて悲しく思っていたのかが分かる。母は「やめさせてほしい」と思っていたが、テレビ局の誰に連絡したら終わるのかが分からなかったと話す。

現在のなすびは、1年3か月の懸賞生活の間に死のうと思ったことが何度もあったことを告白する。

なぜ、このようなことをやらせたのだろう?

制作者側の説明では、誰も見ていないような面白い映像を撮ることを重要視していたようだった。

過去を乗り越える

「ザ・コンテスタント」を見た限りでは、なすびの気持ちと制作者側の優先度は別方向を向いているようだった。

懸賞生活の番組の最後、長髪となったなすびの部屋の壁が崩れ、スタジオ内に裸で座っている自分を知って、なすびは茫然となる。制作者側にとっては素晴らしい終わり方だそうだが、なすびにとっては思い出したくない、見たくない最後なのだ。

それでも、人生は続く。

福島出身のなすびは、2011年の東日本大震災を機に地元の復活と再生のために動く人になった。エベレスト登山に挑戦し、2016年に4度目のトライで遂に登頂に成功する。この間、登山資金調達のために懸賞生活時代の制作者と協力することも辞さなかった。

「ザ・コンテスタント」は、なすびのすがすがしい再生の物語でもある。

しかし、なすびの心身に残った傷は消えないのではないか。

リアリティーショーの先駆