通常の社会学の研究・教育に加えて、このような社会調査実習が数年おきにあったので、数冊の新書版『論文の書き方』を事前に紹介するとともに、表1のような独自の「論文の書き方」を作成して、「社会調査実習」開講時に受講生全員に配布していた。とても個別的論文指導を行うのは時間が足りなかったからである。

表1 論文の構成 (出典)金子、2013:127.

問題意識

これは博士論文、修士論文、卒業論文のすべてに使えるように工夫したが、内容と形式と分量はもちろん違う。実習レポートでも卒論でも、自分の「問題意識」を最初のページに書くことから論文執筆が始まるのは同じである。ただし慣れないと、この枚数が異様に膨れ上がり、「羊頭狗肉」に陥るので、気を付けたい。A4判で10枚のレポートではせいぜい1枚程度でいいという指導をしてきた。

仮説

問題意識などよりも、そこでの仮説と調査方法をきちんと書き込むことが重要であり、実習レポートでは2頁を上限にした。

仮説とは調べたいテーマなのだから、先行研究を少しは学ばないと、何も書けない。調査方法に加えて、それをどこで調べるか、たとえば調査地と調査団体それに調査対象者数にも配慮を求めた。

先行研究

学部生だから先行研究の学習量は予想できるが、それでも日本語の専門書(翻訳も可)を3冊は読むことを求めた。

夏休み期間に調査するのだから、4月から7月までに3冊を計画的に選べば、何とかなるはずという読みであり、多くの場合20名程度の実習生のうち半数近くがこれを守っていたような記憶がある。その学生たちは7月までにオリジナルな仮説を作れるから、夏休みの調査がかなり楽になった。

反面で、何もせずに夏の調査に臨んだ学生たちの仮説はほぼ「犬が西向きゃ尾は東」のレベルに終始して、9月以降に再度の仮説の提出と現地調査を繰り返すことになった。

結果、考察、結論

それを踏まえて、10月以降ではデータ分析の結果をまとめ、先行研究による仮説と照合して、結論を考えて、それぞれがゼミで20分ずつ発表する。この内容に担当者がコメントを行い、翌年の1月末までにA4判10枚のレポートを提出する。

社会調査に明け暮れた10年間