玉村:なるほど、様々なステークホルダーの意見を取り入れ、調整して仕組みを作るということですね。
下野:そうですね。
玉村:よく官僚組織は意思決定が遅いと言われますが、ステークホルダーの意見調整や、国民生活への影響を考えると慎重になるのは当然かと思います。それでも、意思決定が遅いと感じた部分はありましたか?
下野:決裁ルートが長いと感じたことはあります。先ほどお話ししたように、担当者が書類を持ってハンコをもらいに各部署を回る必要があります。係長から課長補佐、課長、他の課、総務課、局長、そして政治家の方々まで、最終的に30個近くのハンコが必要になることもありました。
玉村:30個近くですか!
下野:はい。しかも皆さんお忙しいですから、いらっしゃる時間を見計らって自分で持っていくんです。
玉村:ハンコをもらいに行くときは、ご自身で説明しに行かれるんですか?
下野:はい、そうです。企画法令の担当である私たち係長が持っていくケースが多かったです。特に「じゅうたん部屋」と呼ばれる上層部の部屋に行く時は、めちゃくちゃ緊張しました。
玉村:そうなんですね!どんな感じなんですか?
下野:20年以上前の話ですが、結局、色々な質問が来る場合もあるので、それに答えられるよう、事前に全て準備していく必要がありました。説明して、淡々とハンコを押していただけることもあれば、質問があって答えられず持ち帰ったケースもありました。
玉村:その30個のハンコを回る間に、だんだん説明が詳しくなっていくんでしょうね。
下野:そうですね、「だいたいここ聞かれるな」というポイントが分かってくるので。説明の仕方も、皆さんお忙しいので、端的に分かりやすく伝える技術がその中で鍛えられていきました。
玉村:なるほど。それにしても、その30個のハンコの中で誰か一人でもダメだと言えばダメになるんですか?
下野:順番があるので、途中で文言の間違いなどが見つかれば当然修正してまた持っていくことになります。ただ、強硬に反対された経験はあまりなかったですね。