玉村:実際に入省されて、やはりそういう仕事だと思われましたか?

下野:ええと、私は最初、介護保険の部局に入ったのですが、介護する側・される側に関わる部署ではありました。ただ、実際の仕事は、どう法を変えていくか、法令改正の文言をどう作るかという作業が中心でした。なので、目の前の仕事と、実際の世の中の人の生活や介護の現場がどうなっているかというところは、実際の現場ではなくイメージで結びつけるという感じでしたね。

玉村:なるほど。確かに厚生労働省は国民生活に密接に関わる官庁ですが、行政の現場では現場とのつながりをイメージしにくい職場ではあるのかもしれないということですね。

下野:玉村さんのおっしゃる通りで、国で働くということは物理的な距離感があるというのは分かった上で入りました。それをどう補うか、そこがまさに求められる能力だと想像していました。

玉村:現在も厚生労働省はホットな話題が多いですが、例えば社会保険料の引き上げなどは、消費税増税ほど議論がなされていないように感じます。このような国民生活に大きな影響を与える意思決定は、当時どのように行われていたのですか?

下野:これはあくまで当時の話ですが、社会保険料などが上がるには法令改正が必要になります。すべて根拠が法律なので。官僚だけで勝手に決める仕組みではなく、多くの場合、各省のホームページにも載っていますが、審議会や部会が開かれます。そこには有識者(大学の先生や業界の専門家)が委員として参加し、議論を重ねて最終的に答申が出ます。その答申を受けて、法律を改正し、国会に法案を提出するという仕組みです。

玉村:結構透明化されているということですね。

下野:そうですね。審議会の議事録や資料も公開されますし、パブリックコメントで国民の意見を入れる仕組みもあります。どこまで修正されるかは当時の私の立場では分かりませんでしたが、各業界の代表者が審議会に参加することで、現場の声も反映されるようになっています。