手数料ゼロの裏側にある「決済主導」の収益構造
Chimeのユニークな点は、自らを「銀行ではなく、テクノロジー企業だ」と明確に定義していることだ。実際の銀行サービスは、FDIC(連邦預金保険公社)に加盟するThe Bancorp BankやStride Bankといった提携銀行が提供する。Chimeは、これらの銀行と顧客を繋ぐ金融プラットフォームとしての役割を担う。
では、なぜChimeは月額手数料や最低預金額といった従来の銀行では当たり前だった料金をゼロにできるのか。その答えは、同社の収益構造にある。Chimeの主な収益源は、顧客の口座から直接徴収する手数料ではなく、Chimeのデビットカードやクレジットカードで決済した際に、加盟店側から支払われる「インターチェンジフィー(決済手数料)」なのだ。2025年第1四半期において、決済収益は総収益の72%を占めている。
Chimeの利用顧客が加盟店で商品を購入すると、加盟店はカード会社(Acquirer)に手数料を支払う。その手数料の一部が、カード発行銀行(Issuer、この場合はChimeの提携銀行)に支払われ、さらにその一部がChimeの収益となる。つまり、Chimeは顧客がカードを使えば使うほど、顧客の利益を毀損せずに儲かる仕組みになっている。2024年の決済総額は1152億ドル(約18.2兆円)に達し、これが同社の成長を支える屋台骨だ。

この「決済主導」のビジネスモデルは、伝統的な銀行の「純金利マージン主導」モデルとは対極にある。伝統的な銀行は、預金と貸出の金利差で儲けるため、多額の預金を持つ富裕層や優良な借り手を優遇する。一方で、預金額が少なく、常に口座残高が変動する「Everyday Americans」は、収益性の低い顧客と見なされ、当座貸越手数料や口座維持手数料といったペナルティ的な手数料の対象となりやすい。
実際、年間所得10万ドル以下の層は、預金額の35%未満しか占めていないにもかかわらず、デビットカード取引量でみると75%以上を占めている 。伝統的な銀行にとって「不採算」なこの層を、Chimeは取引量ベースの収益モデルによって「非常に魅力的な」顧客層へと転換させたのである。彼らの支出の70%が食料品やガソリンといった生活に不可欠な非裁量的なものであるため、収益の基盤は安定的かつ予測可能である。
伝統的な銀行と異なり顧客に対する様々な手数料をゼロにできる背景には、運営効率の高さもある。自社開発の決済プロセッサ兼台帳システムである「ChimeCore」などによって、伝統的な銀行の3分の1から5分の1という圧倒的な低コスト構造を実現しているという。