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「二層構造の銀行システム」が生む分断

 Chimeの原点は、共同創業者であるクリス・ブリットCEOの原体験にある。ニューヨーク州マウントバーノンという、ブロンクスに隣接するブルーカラーの街で育ったブリット氏は、両親をはじめ多くの人々が経済的な困難に苦しむ姿を目の当たりにしてきた。

 ブリット氏は、VISAやGreen Dotといった金融企業でキャリアを積む中で、この問題意識を深めていく。当時の米国の銀行システムは、富裕層を優遇する一方で、大多数の一般層からは様々な手数料を徴収することで利益を上げる構造になっていた。ブリット氏はこの構造を「二層構造の銀行システム」と呼び、この下層に置かれた人々のために、新しい金融サービスを作り上げる必要性を感じた。

【完了】手数料ゼロで急成長!米ネオバンクChimeがIPO、見捨てられた層を顧客に変えた異端モデルの画像3
(画像=ブリットCEOの原体験からChimeは始まった)

 こうした背景を踏まえ、Chimeは、年間所得10万ドル以下の「Everyday Americans(一般的なアメリカ人)」を主要ターゲットと明確に定義した。この層は米国成人の75%を占めるが、従来の銀行にとっては預金残高が少なく、融資対象としても魅力が乏しいため、高額な手数料を課さなければ利益を上げにくい顧客と見なされてきた 。この構造的なミスマッチにこそ、巨大なビジネスチャンスが存在すると見抜いたのである。

 今の銀行がおかしいようには見えない。私の銀行は手数料なんて取らないし、君たちが何を言っているのかよく分からないよーー。ブリット氏らは創業時に投資家からこんな言葉を浴びせられたというが、これこそが高所得者には見えていない「二層構造の銀行システム」が存在していることの証左そのものだった。