総裁はタカ派などと書かれているけど、異常を正常に戻そうとしている。最近(6月3日)の記者クラブでの講演でも「正常化の道を進む」と頑張ってみせた。伏魔殿での苦労が偲ばれる。

でも、敢えて言っておきたい。日本経済がその屋台骨の株式市場が低金利・ゼロ金利という異常に慣れてしまったために、正常化を異常な事態と受け止めてしまう。一種の倒錯が生じている。意識の倒錯を起こさせる構造変化が短期間のうちに起きてしまった。こういうことに目配りしたほうがよいと思う。

諸結果

ワタナベ君:8月暴落の結果として指摘できることは何でしょうか?

教授:株式市場の恐慌指数、Volatility Index(Ⅵ)を知っているよね。あれ以来、このⅥの水準が一段階上昇した。普段は15くらい。現在は25~30だ(図2)。

図2 日経平均ボラティリティー指数(Ⅵ)の推移 出典:Bloomberg、2025年4月9日

教授:確かに株価の一日の変動幅が拡大している。日経平均株価が数百円動いても小動き扱い。500円以上動くとやっと人々が反応する。ここでも異常が正常になっている。

教授:“残念”をもうひとつ。2024年に新NISAが導入され、庶民のお金が株式を含む証券市場に移動し、新しい資本主義の看板の下で“貯蓄から投資へ”が推奨され、およそ6兆円も動いた。しかし、それは8月暴落に飲み込まれ、多くの個人投資家が評価損を抱えた。8月5日の午後から翌日にかけて買いに向った海外ファンドは大きな利益をあげた。これはアゴラに書いたが、ここに現代株式市場のひとつの特質が示されている。

特質といえば、8月暴落は日本の株式市場の後進性、途上国並みということを示した。アメリカも欧州も、そしてアジア諸国も、下げ幅は大きくなく乱高下にもならなかった。元ワールド・ゴールド・カウンシル日本代表の豊島逸夫さんの言うとおりだ。

今や日本株の狼狽ぶりは、中小新興並みとの烙印を押されつつある。