本人としては、健診のついでにいつもの薬も処方してもらえれば、1回分が無料になり「何かしてもらった」という気分になって嬉しいのかもしれない。しかし、老人健診では定期診療以上のことは行われない。いわば“糠喜び”にすぎない。
にもかかわらず、現役世代が拠出する保険料によって、年に何度も検査を受けている高齢者に、さらに健診を実施し、それが定期受診以下の内容であるにもかかわらず、公費――すなわち現役世代の血税――を浪費しているのが現状だ。
そもそも定期的に通院している時点で、あるいは要介護であるならば、健康とは言いがたく、「健康診断」を行う意味自体がナンセンスである。
一方で、持病がない、あるいは持病があっても放置し、定期的な受診をしていない高齢者も少なくない。筆者が健診センターで現役世代向けの出張職域健診に携わっていた際の体感では、要医療にもかかわらず受診していない人が、およそ5%程度存在していた。
このような人々は、放置すればある日突然、脳卒中や心筋梗塞などで倒れるリスクがある。健診の本来の意義は、こうした無症状で病気の自覚がない人を早期に拾い上げ、必要な治療につなげることで、重篤な障害や要介護状態を予防することにある。
健診費用の“見えない巨額”
なお、無料の老人健診は「治療」ではないため、医療保険ではなく自費扱いとなり、それを公費で補助しているかたちとなる。このため、健診費用は国民医療費には反映されない。
筆者は健診にかかる予算額を把握しようと政府統計を調べたが、健診費用は「高齢者保健事業費等」に紛れており、明確な金額は把握しにくい。だが、いくつかの資料から推計は可能である。
たとえば会計検査院の報告書によれば、令和2年度の国民健康保険における特定健診の国庫負担金は125億円余であった。国庫補助率が1/3であるため、総額は約645億円と見られる。
さらに、厚生労働省の2024年の資料では、後期高齢者医療制度における健診事業に対し、国庫補助金は約41億円。対象となる高齢者は1686万人で、そのうち健診を受診したのは474万人(受診率28.1%)にとどまる。