超高齢化と平均寿命延伸の一方で、健康寿命との差の拡大が問題視されている。平均寿命男性約81歳女性86歳に対し健康寿命は約72歳と75歳、つまり10年前後要介護になる。これは言い換えると長寿化が要介護化を招き増長したことになる。高齢者医療費の膨張が言われて久しいが、要介護者ということは何らかの疾患により障害があることを意味するから、当然である。

無料健診がもたらす外来混乱と医療ひっ迫

では、老人健診の現場、多くはクリニック外来では何が起きているか。

自治体にもよるが、春から秋頃まで住民健診シーズンである。自治体から国民健康保険加入者に健診チケットが届き、好きな医療機関(健診協力医療機関)に行く。そこで検査する。問題はここからだ。

無料の老人健診では、一通りの検査を行う必要があり、高齢者は理解や動作に時間がかかることも多いため、予約制にしている医療機関が多い。しかし、中には予約制ではないところもある。

筆者の経験では、予約制ではない小さなクリニックに、午前中だけで5人の健診希望者が来たことがあり、そのうち二組は夫婦で仲良く来院していた。こうなると、健診だけで診療時間が埋まってしまい、通常の診察が後回しになってしまう。

いつもの薬をもらうだけの患者や、具合の悪い新患が長時間待たされる事態も発生した。たとえ「不要」とは言えなくとも「不急」である健診のために、具合の悪い患者が待たされるのは本末転倒である。

しかし、着順で呼ばなければ「なぜ自分の順番が後なのか」といったクレーム、いわゆるカスハラにつながることもある。小さなクリニックでは、看護師が1人だけということも多く、複数の患者を並行して対応するのは困難なのが現実である。

多くの高齢者は高血圧など何らかの持病を抱えており、すでに定期的に通院して検査を受けている。健診はあくまでスクリーニング目的であり、実施されるのは最低限の検査にすぎない。たとえば横浜市では、いつの間にか75歳以下の健診からは貧血などの基本項目が外されてしまった。