さらに女性取締役が1人もいなかった企業に1人以上女性が入った場合でも、ROAは平均で0.156ポイント低下するという興味深い結果が示されました。

また研究者たちは、「特に女性取締役の増加による影響が強く出る企業はどのようなタイプなのか」という視点で、さらに詳しく分析しました。

すると、小規模な企業や、負債を多く抱えている企業ほど、この負の影響が顕著であることが分かりました。

つまり小さな会社や借金が多い会社では、女性取締役が増えることで経営のスピード感が鈍り、判断が遅くなるという可能性が示唆されました。

一方で、機関投資家が多い企業やイノベーション主体の業界ではこの負の影響はあまり目立たず、むしろ規制の多い業界や消費者向けの商品を扱う業界でより顕著に見られました。

また、コロナ禍前と比べて、コロナ禍の間では女性取締役が増えた際のマイナスの影響がやや弱まる傾向があることも明らかになりました。

研究チームは、ここでさらに「女性取締役が増えたから業績が下がった」のか、あるいは「業績が下がった企業ほど女性取締役を増やした」のかという因果関係(どちらが原因でどちらが結果か)を明らかにするための追加分析を行いました。

具体的には、日本政府が進める「女性活躍推進政策」を利用し、この政策が企業に女性取締役を増やす影響を与え、その結果として企業業績がどのように変化したかを検証しました。

その結果、やはり女性取締役の増加が業績低下を引き起こしている可能性が高いことが改めて裏付けられました。

また、女性取締役の割合がある一定の割合(例えば30%)を超えると業績が改善するという『クリティカルマス理論』が海外ではよく知られていますが、日本企業ではこの理論に当てはまる現象は確認できませんでした。

そもそも日本の企業で女性取締役が3人以上いるケース自体が非常に少なく、女性比率が高い企業があまりに少ないことが原因である可能性があります。