その背景には、いくつかの理由があります。まず、女性取締役は取締役会の会議において、経営陣の意思決定や行動をより慎重に評価しようとする傾向が強いという研究結果があります(Adams and Ferreira, 2009)。これは女性が、男性が中心となった既存の取締役会の「暗黙のルール」や「なあなあな関係」から距離を置き、より客観的な視点で企業統治を行うことを示しています。

また、取締役会の男女多様性が進むことで、意見の違いが生まれやすくなります。

多様な視点は企業にとって良い影響もありますが、日本企業のように同質性を重視してきた企業文化の中では、意見調整に時間がかかり、短期的には効率が落ちることもあり得ます。

さらに、日本社会には女性の経営能力に対する無意識の偏見やステレオタイプが根強く残っています。

そのため、女性取締役が実際に企業の意思決定において十分に活躍するには、このような偏見や障壁を取り除く努力が欠かせません。

加えて研究では、女性取締役が多い企業ほど社会的責任(CSR)活動やイノベーションに積極的になる傾向があり、短期的には財務面での負担が増えることも示されています。

こうした要素は、従来の業績評価基準だけでは捉えきれない側面を持っています。

そのため研究では、単に女性取締役を数として増やすのではなく、女性が実際にその能力を発揮できるような企業文化や制度づくりが必要だと指摘しされています。

企業の経営者や政策担当者は、今回明らかになった結果を踏まえ、女性登用政策や多様性の推進をより慎重に進めていくことが求められるでしょう。

今後、日本企業が多様性の推進を通じて長期的な成長を実現していくために、この研究結果を踏まえた議論や対応がますます重要になっていきます。

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元論文

Board Gender Diversity and Firm Performance: Recent Evidence from Japan
https://doi.org/10.3390/jrfm17010020