今回の研究によって、私たちが「何を最初に見るか」は、育った環境や文化の影響を大きく受けている可能性が示されました。
普段「同じ世界を見ている」と思っている私たちは、実はそれぞれ「自分の文化のフィルター」を通して景色を見ているのかもしれません。
図から長方形ではなく円を感じたヒンバ族の女性、ウアプワナワ・ムヘニジェさんは、「都会で育った人たちが丸いものを見つけられないなんて本当にびっくりしました。どうして見えないのか本当に不思議です」と語っています。
この発言が示す通り、自分にとってはごく普通に見えるものでも、別の環境で育った人には「存在しないもの」になってしまうことがあります。
私たちが「見える」か「見えない」かという単純な感覚に、これほど深く文化が入り込んでいることに驚きを隠せません。
では、この違いは脳のどのような仕組みで起きているのでしょうか?
今回の実験から考えられるのは、脳が視覚情報を最初に処理する段階で、すでに育った環境が影響を与えている可能性です。
都市のように直線や角ばった形ばかり見て育った人は、線を見ると無意識に「これは四角形だ」と判断する癖がついてしまっているのかもしれません。
反対に、伝統的な村のように丸みを帯びた形が身の回りにあふれている環境で育った人は、線を見るとまず「円だ」と自然に判断してしまうのでしょう。
これはまるで「脳の中にある視覚の初期設定が、育った景色によって書き換えられている」ようなものです。
この発見は、これまでの視覚研究や人工知能の研究にも重要なヒントを与えます。
多くの視覚理論やAIは、人間がどのように世界を見ているかを「普遍的」だと思って作られています。
しかし、もし「育った環境」が視覚の基本設定を左右するなら、現在のモデルは「世界のほんの一部」しか反映していない可能性があります。
研究者たちは「都会的な環境に偏った研究ばかりを続けていると、他の環境で育った人々が見ている世界を完全に見逃してしまう危険性がある」と警鐘を鳴らしています。