丸しか見えないどういう意味か?
ここで注意したいのは、「丸しか見えない」というのは、「長方形の模様がまったく認識できない」ということではなく、「まず最初に強く見える形が円である」という意味です。
つまり、都会の人にとって一瞬で認識できる「長方形」は、村の人にとっては「なかなか見えない、見えにくい模様」であり、逆に村の人にとって強く見える「円」は、都会の人にとっては「なかなか気づきにくい、あるいは後になってようやく見えてくる模様」だということです。ヒンバ族の参加者のうち半数近くは、長く見続けても「長方形」をまったく認識できず、「円しかない」と感じていたほどでした。彼らの視覚は普段から「曲線的な形」を強く認識するように慣れているため、錯視画像の中に埋め込まれた円が最初からくっきりと浮かび上がってしまい、長方形という別の見方が難しくなっていたのです。
つまり、「丸にしか見えない」とは、「脳がまず円を最初に強く認識してしまい、長方形は脳の中でかき消されてしまう状態」ということです。これは、「普段目にしている形状によって、脳が特定のパターンを優先的に選ぶようになる」という現象の一例と言えるでしょう。
研究者たちは、他にも数種類の錯視画像を使って調査を進めました。

その一つが「カフェウォール錯視(Café Wall Illusion)」と呼ばれるものです。
たとえば上の図はカフェウォール錯視の一種で、本来まったく平行な線が「階段状の市松模様」のせいで傾いて見える錯覚として知られています。
イギリス・米国の都市部の参加者とナミビアの準都市住民の大半(約9割以上)は「線が斜めにずれている」と即答しました。
ところが伝統的なヒンバ族の村人はその逆で、6割が「線はまっすぐで傾いていない」と答え、それらの人々は錯視自体をほとんど感じていませんでした。