この場合、CO2の1モル=44gを吸収するのに正味5437円かかっている。つまり1グラム当り123.6円、1トン(=106 g)当りでは123.6×100万円=約1.2億円かかる。大規模にやれば多少コストダウンできるとしても、これではお金がいくらあっても間に合わない。
高いナトリウム系薬品を使うから特に不利なので、銀座の自販機のように消石灰を使えば20kg2060円、つまり1kg100円程度で実行でき、生成する炭酸カルシウムは500g760円なので1kg1500円以上する(この場合は高精製品だが)。つまり経済的価値が上がる。だから、同じCO2吸収装置ならば「ひやっしー」よりも銀座の自販機の方が優れている。
ちなみに、CO2を地中または海底に沈めるCCS事業の目標コストはトン2万円である。私の見立てではこんなに安く出来ないと思うが、トン10万円もかかったら実用性はないだろう。また、排出権取引の現状の相場はトン数千円だそうだ。これでは皆が排出権取引に飛びついてしまう。CO2自体は何も減らないのにお金だけ流出する、この詐欺まがいの排出権取引に…。
「ひやっしー」の発案者は、東大理1から工学部に進み、その後中退、在学中に東大で講義したこともあるそうだが、私から見ると、この人の頭脳は計り知れないというか、どうかしている。
「ひやっしー」への批判についても「科学の尺度だけで計れないビジネスの話をやっているので、科学界からの批判はあるかもしれないが、そうやって研究停滞させていたら何も解決しない」と主張しているそうだ。
しかし、この主張には致命的な欠陥がある。研究開発というのは、科学的に正しいことを基礎に行うものなので、科学を無視した研究は「似非科学」に過ぎなくなるからだ。つまり、科学の尺度で測って間尺に合わないものは、研究するに値しないということ。その種の試みは、やればやるほどオカルト魔術に近付いて行く。実際、彼の方法ではいくら試みても「何も解決しない」。