しかし実はこの装置、水酸化ナトリウムNaOHでCO2を吸収するだけのものだった。この記事には、山下誠・名大教授の科学的で的確な批判も載っているが、一方で「スゴイ!天才」「衝撃と歓喜!」と言った賞賛の声もあったらしい。私は、この記事を見た瞬間に吹き出した。まさに、噴飯物。

むろん、山下教授の指摘が正しいが、手元には水酸化ナトリウム製造のCO2原単位などのデータがないので、経済計算で別途に検討してみた。その根拠は、一般に、高いものほど製造などにエネルギーを多消費していると言う経験則による。

考えてみればある意味当然で、人間の活動には何らかのエネルギー消費が伴うから、エネルギー多消費なものは高くつくはずなのだ。例えば、金が高いのは、鉱石中の含有率が低いため、多量の鉱石を掘り出し、含まれる僅かな金を抽出するために多量の労力とエネルギーを消費するからだ。鉱物資源は一般にそうであり、工業製品も、手間ヒマかけたものほど値段が高いのが普通である。

なお断っておくが、物の値段は製造時のエネルギー消費量だけに比例するものではない。何らかの希少価値があれば、物の値段は上がる。例えば、ただのボールと大谷選手が本塁打を打ったボールでは、製造原価や製造エネルギーが同じでも値段は全然違ってくる。この種の例は、むろん除外して考える。

さて「ひやっしー」である。使用する化学基礎物質の価格をネットで調べてみた。

・炭酸ナトリウム(無水500g:890円 Na2CO3:106 g/mol)

890円/500g ×106 g/mol=188.7 円/mol

・水酸化ナトリウム(1mol/L 1L水溶液:2813円)

NaOHそのままで2813円/mol

実際には、CO2を1モル吸収するには、NaOHが2モル要る。化学式では、

2NaOH+CO2 → Na2CO3+H2O (5626円)    (189円)

つまり「ひやっしー」とは、5600円以上するNaOHにCO2を吸収させて189円のNa2CO3を製造する過程に過ぎないわけである。要するに、大損。エネルギー計算で検討しても、大筋こんな結論になるはずだ。