暗黒物質そのものは光を放ちませんが、地球内部で物質と反応を起こすことで結果的に光を伴う粒子(ミュー粒子の飛跡として観測されるチェレンコフ光)を生み出す――言わば「暗黒物質が地球の中で発光した」ように見える現象です。
この仮説に基づけば、KM3-230213Aイベントはニュートリノではなく暗黒物質が引き起こした事象だった可能性があります。
そこで研究チームは、暗黒物質が「地球で光る」仕組みを説明するために二つの反応パターンを考えました。
ひとつめは“二段階ジャンプ”型です。
宇宙から飛び込んできた暗黒物質の粒(χ)が地殻中の原子核にぶつかると、一瞬だけエネルギーをたっぷり吸い込んだ興奮状態(χ*)に跳ね上がり、すぐに元の姿(χ)へ戻る際にミュー粒子という兄弟粒子を二つ放り出します。
もうひとつは“ワンショット生成”型です。
暗黒物質 χ が原子核と衝突した瞬間に未知の仲介粒子 Z′を吐き出し、この Z′がほとんど時間をおかずにミュー粒子のペアへ崩れるというものです。
どちらの道筋でも最終的にミュー粒子が二本、地面の下から水中へ突き抜け、KM3NeT や アイスキューブ の光センサーに青い閃光を刻んで行きます。
検出器はミュー粒子の飛跡を一本の光の線としてしか見分けられないため、この二本が同時に飛び込んでも“一発”の出来事として記録されます。

次に研究チームは、暗黒物質の粒がどれくらい他の物質とぶつかりやすいか(散乱断面積)、仲介粒子 Z′の短い寿命、さらに“弾丸”を撃ち出すブレーザーの明るさやフレアの長さなどを変えながら計算を重ねました。
すると地球から約七十億光年先(赤方偏移 z≈1)のブレーザーが、たった二年間だけ大噴火して暗黒物質をビームのように撃ち出す状況でも、KM3NeT には年に一度レベルで事象が入り込むとわかったのです。
南極のアイスキューブでは同じ粒子が通る地下の距離が短く、途中でぶつかって光る確率がずっと下がるため、同クラスの信号がほぼ見えなかった理由も自然に説明できます。