この検出器にはほぼ 1 万 2000 本の光電子増倍管(PMT) が稼働していました。そのうち およそ 4000 本──全体の 3 分の 1 強 が KM3-230213A の光をとらえ、しかも 25 % 以上(3000 本超)は信号が大きすぎて飽和してしまったとのことです。1個や2個の反応ならば誤検出の可能性もまだあり得ますが、4000個が一斉に反応したという結果は、確実に巨大なエネルギーを持つ粒子が出現したことを示しています。
さらに、再構成された飛跡は水中をほぼ一直線に貫通しており、エネルギー分布や角度分散も既知のバックグラウンドの特徴とかけ離れていました。こうした多角的なチェックを経た結果、誤検出である可能性は事実上無視できると結論づけられており、研究者たちはこのイベントを「ほぼ確実に実在する超高エネルギー宇宙粒子の通過」とみなしています。
では超高エネルギー粒子が本当に通過したとして、その正体はニュートリノ意外に何が考えられるのでしょうか?
ひとつは暗黒物質が地球内部で散乱し、高エネルギー粒子を生成した可能性です。
暗黒物質は未だ直接観測されたことのない仮想上の物質ですが、宇宙に存在する質量の大半を占めると考えられており、その崩壊や相互作用が極高エネルギー粒子を生み出すシナリオは標準理論を超えた新物理として以前から議論されています。
他にも初期宇宙のブラックホール蒸発や光速を超える粒子の仮説など、いくつかの挑戦的なアイデアが提案されました。
しかし、いずれの案も「アイスキューブで未検出」という謎まではうまく説明できませんでした。
(※なお日本のニュートリノ観測装置でも検出されていません。)
こうした中、2025年5月にアメリカ・欧州・インドの理論研究グループが発表したのが、「今回の粒子はニュートリノではなく暗黒物質による現象だ」という大胆な仮説でした。
彼らの目的は、この超高エネルギー事象の謎(発生源のエネルギー問題とアイスキューブ未検出問題)を一挙に解き明かすことにありました。