これらの候補はブレーザーと呼ばれる天体で、銀河中心の巨大ブラックホールが膨大なエネルギーを放射しているものです。
ブレーザーは中心ブラックホールからジェット状に高速粒子を噴き出し、中には地球方向へ粒子を放出しているものも知られています。
ブレーザーは宇宙線やニュートリノの有力な発生源と考えられており、2018年にはアイスキューブ観測所がブレーザー由来とみられる高エネルギーニュートリノを検出した例もあります(TXS 0506+056事件)。
しかし今回の粒子の場合、必要とされるエネルギー規模が桁違いに大きく、通常のブレーザーでは説明が困難でした。
推定では、この粒子をニュートリノだと仮定すると発生源の明るさは通常の銀河のエネルギー放出(約10^45エルグ/秒)の約10万倍(約10^50エルグ/秒)にも達し、仮にビーム状の集中放射で1000倍明るく見積もっても、100年単位の長期間にわたる大規模フレア(爆発的活動)が必要になるとされています。
これは常識的に考えて非常に難しく、観測された1事象を説明するには無理がある値です。
さらなる疑問は南極のアイスキューブ観測所との比較から生まれました。
アイスキューブはKM3NeT と比較して同エネルギー帯の事象に対して約 5〜10 倍の有効面積を持っています。
ところが、アイスキューブでは今回に匹敵するような超高エネルギー事象は一つも報告されていないのです。
本来ならば南極でも検出されてもおかしくないはずの粒子が、なぜ地中海でしか捉えられなかったのか――この食い違いは研究者たちを大いに悩ませました。
以上のような背景から、この「高エネルギー粒子」の正体については様々な仮説が飛び交うことになります。
誤検出の可能性は潰されている
現在までに行われた解析では、KM3NeT が捉えた KM3-230213A について「機器のノイズや大気ミュー粒子の取り違え」といった誤検出シナリオは徹底的に検証されており、いずれも極めて起こりにくいことが確認されています。まず信号は検出器全体の約3分の1もの光センサーで同時に記録され、個々のタイミングもマイクロ秒単位で首尾よく一致していたため、単発の電子ノイズで説明する余地がありません。