この違いは、ブラックホールの事象の地平面が緩やかな場合と急激な場合でホーキング放射の様子が変わることを示唆しており、理論的にも予測されていた現象です。

また興味深いことに、今回の光の液体では発生する波(粒子)の振る舞いを質量がない場合(音波のような振る舞い)だけでなく、有効的に質量を持つ粒子のように振る舞わせることも可能だと分かりました。

(※レーザーの強さを変えると、光の色の並びにできる“隙間”が出たり消えたり、この隙間は粒子が重さを持つサインとして見ることができるので、レーザーの強弱で粒子が重さを付けたり外したりできると分かったのです。)

これは他の物理系にはない独自の可変性であり、光の液体による時空シミュレーションの幅広さを示しています。

机上ブラックホールが開く量子重力の扉

この研究は、光で作った流体を使って時空の曲がった環境における量子現象を実験的に再現できることを示した画期的成果です。

特に、ブラックホールの模型でホーキング放射に関連する兆候(負のエネルギーの波の出現)を捉えた点は大きな前進と言えます。

「天体観測では誰も確かめようのない現象でも、実験室ではそれが可能かもしれません」とジャケ研究員は述べており、今回の成果が現実のブラックホール物理に迫る有力な手段となることを強調しています。

ただし彼も認めるように、たとえ模型とはいえ実験室のブラックホールと宇宙の実在のブラックホールではスケールも環境も大きく異なります。

そのため、今回の結果が直接ホーキング放射の実在を証明したわけではありません。

しかし、モデル系であってもホーキング効果の核心部分である「地平面で生まれる量子もつれペア」の片鱗を捉えたことは、今後の研究に大きな希望を与えます。

今後、この光の液体の実験系をさらに発展させることで、ホーキング放射そのもの(境界を挟んで生成するペア粒子同士の相関=量子もつれ)の検出を目指す計画もあります。