フランスのソルボンヌ大学(SU)で行われた研究によって、「光の液体」の流れを自由に制御することで、実験室内にミニチュアの時空とブラックホールの地平面を再現し、さらに内部で負のエネルギー派が存在することが確かめられました。

この負のエネルギー波は通常の波と衝突すると消滅すると考えられています。

また「光の液体」では粒子が川のように流れ、その速さが波の伝わる速さを追い越す瞬間、波は二度と上流へ戻れなくなる「事象の平面」の光版とも言うべき「光の地平面」を形成し、加えてホーキング放射の兆候もみられました。

光流体という奇抜な実験系で負のエネルギー波が観測されたのは世界初です。

研究者たちは、このテーブルサイズのブラックホールは、従来は理論上の存在だった「ホーキング放射」(ブラックホールが粒子を放出するという理論的予測)を、実験室で詳しく調べられる方法になると述べています。

果たしてこの手のひらサイズの“机上の宇宙”は、極限の天体物理にどこまで迫れるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年6月6日に『Physical Review Letters』にて発表されました。

目次

  • なぜブラックホールを縮小コピーするのか
  • 「光の液体」でできた時空とブラックホールが誕生
  • 机上ブラックホールが開く量子重力の扉

なぜブラックホールを縮小コピーするのか

なぜブラックホールを縮小コピーするのか
なぜブラックホールを縮小コピーするのか / Credit:clip studio . 川勝康弘

宇宙に存在するブラックホールは、重力が非常に強いため光さえも逃れられない領域を持ちます。

この境界が「事象の地平面(event horizon)」です。

一度この地平面を越えると、内部からは何も外に出られないため「戻れない境界(ポイント・オブ・ノーリターン)」とも呼ばれます。

1970年代に物理学者スティーブン・ホーキングは、この地平面の量子効果としてブラックホールがわずかな放射(ホーキング放射)を放つと理論予言しました。