したがって、身の回りの流体で見える地平面は「極端な現象の骨格となる運動学的ルールは意外と普遍的だ」と示す一方で、「そのルールを生み出す力学(重力・水圧・光‐物質相互作用)はケースごとに異なる」ことを同時に教えてくれます。身近な実験はブラックホールを丸ごと縮小コピーしたわけではありませんが、少なくとも “波が逃げ出せない境目”という核心部分 を共有しているため、地平面周辺の量子現象をテストする有効な模型として働く、というのが現在の理解です。

このように「光の液体で時空をシミュレートする」研究は、重力と量子の世界を結びつける新たなアプローチとして注目されています。

ブラックホールの謎に挑む壮大なテーマを、実験室という身近な場で探求できるようになったことは、科学好きの一般の方々にとっても興味深い進展と言えるでしょう。

今後、実験技術のさらなる改良によってホーキング放射の直接的な検出や、量子重力理論の検証につながる成果が報告される日も近いかもしれません。

その日を迎えるために、研究者たちは引き続き「光の液体」の中に潜む時空の秘密を探っていくことでしょう。

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元論文

Polariton fluids as quantum field theory simulators on tailored curved spacetimes
https://doi.org/10.1103/t5dh-rx6w

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部