しかし、この料金は東電にとって原価割れとなる水準です。本来、東電としては原子力で発電した安価な電力をできるだけ高く販売し、累積債務の返済に充てたいと考えているはずで、この価格での提供には慎重にならざるを得ません。
また、地元の電力会社である東北電力から「ダンピングだ」との批判を受ける可能性もあります。新潟県内での価格競争が激化すれば、他社との摩擦も避けられないでしょう。
とはいえ、地元向けに限定的な割安料金プランを展開することで、原発立地自治体との信頼関係を強化し、再稼働への理解を広げるきっかけにもなり得ます。リスクはあるものの、地域との協調を重視する観点からは、東電にとって検討に値する施策とも言えるのではないでしょうか。

表2 柏崎刈羽原発7号機の年間発電電力量と新潟県各種消費電力資料は2022年2023年資源エネルギー庁統計資料より
表2では、柏崎刈羽原発7号機の年間発電電力量(※稼働率0.86で試算)と、新潟県内の電力消費量──具体的には、柏崎市・刈羽村の一般家庭、新潟県全体の特別高圧受電(66kV以上)、および高圧受電(6kV)──との比較を示しています。
仮に、これらの全需要が東京電力の「原発故郷料金」に切り替わったとすると、7号機の年間発電電力量に対して需要は109%に達します。つまり、7号機の電力はすべて新潟県内で安価に消費されてしまう計算になります。これでは、電力をできるだけ高く売って収支改善を図りたい東電にとっては大きな痛手です。
「早い者勝ち」方式の提案
そこで、早い者勝ちの方式を採用するのはどうでしょうか。
表3の数値の通り、供給対象を限定して「原発故郷料金」の契約を募集すれば、7号機の発電量のわずか約1%程度に抑えることができます。この規模であれば、東電の収支に大きな影響を与えることはなく、現実的なスキームと言えるでしょう。

表3 原発故郷料金募集上限(1回あたり)