なお、現行の「託送」制度を用いれば、東北電力の協力がなくてもこの構想は実現可能です。事業所に限らず、一般家庭を対象としたサービスも提供することができます。
原発で発電した電気の値段をシミュレーションすると、いくらになるのか?
原子力発電でつくられた電気のコストを「原価」として、電気料金を試算すると、一体どの程度の金額になるのでしょうか。
図1は、2023年1月に東京電力が電気料金の値上げ申請を行った際に提出した資料です。それによると、総原価6兆3,154億円のうち、火力発電に関わる燃料費や電力購入費は5兆1,786億円で、全体の82%を占めています(なお、運転停止中の原発の維持管理コストも総原価に含まれています)。
このデータをもとに、「仮に原発だけで発電していた場合の電気料金」がどの程度になるのかをシミュレーションしてみましょう。

図1 東電料金値上げ申請資料の料金原価(2023年1月申請時)
「原発の電気は火力と違って燃料費がかからないのだから、総原価から電源調達費用をすべて差し引いて、6兆3,154億円-5兆1,786億円=1兆1,368億円を総原価として計算すべきだ」という意見もあります。
しかし、この計算方法はやや楽観的すぎるでしょう。原発は出力調整が苦手で、電力需要の変化に即応することができません。そのため、変動に対応できる火力や水力の併用が不可欠で、原発だけでは電力供給をまかなえないのが実情です。
では、現状の設備容量を無視して「原発を究極まで増設した」場合、火力発電の燃料費はどこまで削減できるでしょうか。
たとえば、関西電力や九州電力は、原発をほぼ全機稼働させた結果、火力の燃料費をおおよそ50%削減できています。ただし、この効果は揚水式発電所(余剰電力を利用して水を汲み上げ、必要なときに発電する方式)の容量に強く依存します。関西電力はこの設備容量が他社より大きいため可能でしたが、東京電力が同様の削減を実現できるかどうかは不透明です。