同じことは、2010年の「二二大綱」以後の日本の防衛政策にもいえるでしょう。「動的防衛力」「統合機動防衛力」「多次元統合防衛力」は、どのようにして日本の安全保障に貢献しているのでしょうか。
もちろん、時間が現在に近づけば、歴史証拠による検証は困難になります。しかしながら、原因と結果の因果関係を見定める方法は、史料による過程追跡法だけではありません。
第1に、「反実仮想」は、結果の必要条件を検証する優れた仮想実験方法です。冷戦期において、長い間、激しく対立していた米ソが戦火を交えなかったのはナゾでした。この「長い平和」は、ジョン・ルイス・ギャディス氏(イェール大学)が「反実仮想法」を使って、一定の説得的な分析を行っています。
すなわち、冷戦前であれば戦争になっても不思議ではない対立が起こったにもかかわらず、平和が保たれたのは、冷戦前の大国間政治にはなく冷戦期の米ソ関係に存在した要因が引き起こしている可能性が疑われるということです。それが国際システムの二極構造であり核兵器でした(John Lewis Gaddis, The Long Peace, Oxford University Press, 1989)。
第2に、理論も政策評価や立案の力強い味方です。戦争と平和については、戦略研究の豊富な蓄積があります。たとえば、通常戦力による抑止は、敵対国の戦闘への期待が「消耗戦」であれば、成立しやすいことが分かっています(John Mearsheimer, Conventional Deterrence, Cornell University Press, 1983)。
この理論が正しければ、日本が通常抑止を維持したければ、潜在的敵国に疲弊を強いるような戦略とそれに沿った戦力を構成・運用をする防衛政策をとって、それをアピールすることが理にかなっています。
日米同盟と安全保障:責任転嫁を続ける日本
おそらく、日本の安全保障に最も貢献したのは日米同盟でしょう。なぜならば、国際システム(新冷戦や冷戦の終結など)、国内政治(55年体制の崩壊など)、個人(政治指導者の交代など)の全レベルで大きな変化があるにもかかわらず、日米同盟(米軍の日本占領期も含む)と日本の「平和」は変化していないからです。