こうしたケーススタディから浮かぶ結論はシンプルです。
「国家が仏教を優遇すると、その特権意識が過激派に“お墨付き”を与え、暴力の引き金になる」ということです。
研究者たちは「宗教優遇策には暗い影の部分があり、それが多数派の自警団に少数派攻撃の口実を与えてしまう」と述べています。
優遇されている側の過激な僧侶や民間人は、自らの暴挙を「国家と仏教を守るための正当な行動」と主張しますが、その結果、生じるのは社会の分断や秩序の破壊です。
実際、ミャンマーやスリランカでは政府自身が煽った宗教対立が手に負えなくなり、後になって沈静化を図ろうとする事態に陥りました。
統計モデルでは、国家の“仏教優遇スコア”が1ポイント上がるごとに、暴力事件が 31~56 % 増えると推定されています。
仏教優遇スコアとは?
研究チームが使った 「仏教優遇スコア(Buddhist Favoritism Score)」 は、以下の8 つのチェック項目が当てはまるごとに1ポイントプラスされ、合計 0〜8 点で判断されます。点数が高いほど「国家と仏教の蜜月度」が強いことを示します。
1. 憲法が仏教を優遇される宗教として認めている
2. 仏教に他宗教には与えられていない特権がある
3. 政府が仏教に資金やその他で明らかな優遇措置をしている
4. 政府が教育において仏教に明らかな優遇措置をしている
5. 政府が仏教の宗教的財産に明らかな優遇措置を提供している
6. 政府が教育や財産以外の仏教の宗教的活動に明らかな優遇措置をしている
7. 公立学校で仏教の宗教教育が義務付けられている
8. 政府が法的判断で仏教の権威、経典、教義を何らかの形で採用している
研究ではこの簡易な判断であっても-3 σ 〜 +3 σ 程度の分布が得られ、回帰分析で十分なばらつきが確保できることが示されました。
一方、国家がどの宗教も特別扱いしない場合には、同じ仏教徒多数の社会でも暴力の芽が大きく抑えられることも明らかになりました。