今回の実証結果は、この「宗教特権の逆効果」を具体的に示したものと言えるでしょう。

では解決策は何でしょうか。

研究チームは、宗教間の平和と安定を図る政策として政教分離と信教の平等・自由を挙げています。

具体的には、以下のような原則に基づく社会制度が望ましいと提言しています。

政教分離:政治権力と宗教組織を明確に分離し、国家が特定の宗教に肩入れしない。

宗教間の平等:歴史的に優勢な宗教であっても他の宗教と同等に扱い、法制度上の特権を認めない。

信教の自由:すべての市民に信仰の選択・実践の自由を保障し、どの宗教にも改宗や布教の権利を認める。

研究者らは「国家は宗教と国家を切り離し、多様な信仰を平等に扱う政策を追求した方が、結果的に安定に資する」という趣旨を述べています。

これは宗教的寛容(トレランス)の重要性を説く近年の知見とも合致します。

実際、宗教の自由度が高い社会では過激思想が公開の議論で批判に晒されやすく、過激派が支持を集めにくい傾向があります。

逆に政府が弾圧的すぎても地下に潜って過激化する恐れがありますが、少なくとも「一宗教を公然と優遇する」体制は多宗教社会に不和と暴力をもたらすリスクが高いと言えるでしょう。

本研究は、仏教を題材に「宗教と国家の関係性」が宗教平和の鍵を握ることを明らかにしました。

仏教に限らず世界各地で台頭する宗教ナショナリズムに対し、安易に多数派宗教と政権が結託することの危うさを示唆するものです。

著者らは「宗教と国家の同盟関係が本当に有益なのか、当事者たちが再考することが望まれる」と述べています。

宗教的熱狂が政治権力と結びついて暴力という牙をむく現象は、21世紀に入って顕著となった宗教暴力増加の一因とも指摘されています。

本来は人々の心の支えであるはずの宗教が「武器」と化す皮肉なパラドックスを克服するためには、国家が宗教と適切な距離を保ち、多元的な社会の中で信仰の自由と平等を保障していくことが不可欠と言えるでしょう。