こうしたリスクテイキングには当然、リスクプレミアム(対価)が必要であり、結果として得られた利益はその多寡に関わらず、決して「暴利」ではなく、経済合理的な収益である。

2. ショック吸収機能(スタビライザー)

第二に、価格の急変を防ぐショック吸収機能(バッファー効果)である。

コメのような主食市場では、需給が一定の臨界点(クリティカルポイント)を超えると、価格が非線形的に急騰・暴落する構造がある。こうした非線形性を和らげるために、卸は供給を分散的・計画的に行い、急激な価格変動を抑える緩衝装置(スタビライザー)として機能している。

3. 在庫調整機能(裁定的インベントリーマネジメント)

第三に、在庫調整機能(裁定的インベントリー・マネジメント)である。

卸は、目先の需要過熱に応じて在庫を一括放出するのではなく、新米期など将来の供給時期を見越して、在庫を段階的に市場へ投入する。このような時点間価格差(インターテンポラル・プライスギャップ)に基づく在庫戦略は、価格を過剰に上げ下げせず、時間を通じて価格をならす「スムージング効果」をもたらす。

消費者から見れば、米価は「急に高くなった」と映るかもしれない。

だが実際には、卸が約2年にわたり在庫を慎重に調整し、価格上昇を段階的に図ってきた結果である。その過程で、欠品によるパニックを未然に防いできた。その証拠に、主要な外食や中食産業での「コメ不足」は見かけない。長期契約のない小売に対しては、供給調整を行いながら、過度な買い占めや混乱的な購入行動を抑える「購入抑制効果」も発揮してきた。

こうした卸の機能は、民間でありながら、実質的に公共財的な市場安定化を果たしてきた。その多大な貢献を無視して「利益を得たから悪だ」と断ずるのは経済学的にも政策的にも誤りであり、コメ行政を掌握する農水大臣として失格だ。

統計は「説明」ではなく「構成」する力をもつ

農水省は本来、正確な作況情報と民間の需給予測を精緻に取りまとめ、市場に的確なシグナルを提供する責務を負っている。