もし農水省が現場の声や価格シグナルを正確に把握し、需給見通しとして適切に反映・発信していれば、ここまでの価格高騰や混乱は回避できた可能性が高い。
以上からわかる通り、市場価格を吊り上げたのは小泉農相が糾弾するコメ卸では決してない。農水省の誤った需給情報によって市場と実態のあいだに情報乖離と不信感が生じ、それにコメの各市場プレイヤーが合理的に反応したにすぎない。
その結果である価格上昇は市場が発したシグナルであり、需給の逼迫という現実を可視化する唯一のツールだったのだ。
したがって、農水省統計を司る小泉農相がコメ卸を非難するのは、米価高騰の因果関係を逆転させたまったくもって無責任な主張である。
複雑なリスクを引き受けるコメ卸の機能
主張を撤回するに当り、小泉農相はコメ卸の機能について勉強し、正しく理解しなければならない。
卸は、外食・中食などと複数年ベースの数量契約を結んでおり、価格変動に関係なく、契約通りの供給を維持しなければならない。こうした契約は価格非弾力的な需要に近く、卸は集荷業者からの仕入価格が高騰しても調達を止めることはできない。
つまり卸は、契約履行のためにあえて高値で仕入れ、リスクを負いながら供給を継続しているのである。
これは単なる中間業者による営利活動ではない。むしろ、コメ卸が担っているのは、主食であるコメ市場全体を調整する、準公共的な役割である。流通のクッション役として、需給の波を緩和し、パニック的な欠品や急騰・暴落を防ぐその機能は、社会全体の安定に資する不可欠な存在だ。
3つの機能に分けて説明しよう。
1. リスクベアリング機能第一に、価格変動リスクの引き受け機能(リスクベアリング)である。
米卸は、仕入れ価格が高騰しても複数年契約や数量確約を守るため、価格に関係なく調達・供給を継続する必要がある。この価格非弾力的な需要構造のもと、価格変動リスクをコメ卸が自ら負担しているのである。