興味深いことに、実際にパターンが提示されたか否かにかかわらず、この脳活動の強さで参加者の現実判断を予測できてしまいました。

通常、紡錘状回の活動は「何かを想像している時」の方が「実際に見ている時」よりも弱く、このおかげで脳は内部の想像と外界の現実を区別できています。

しかし本研究では、想像上のイメージが極めて鮮明になると紡錘状回の活動が知覚時と同程度に強まってしまい、その結果、参加者が自分の想像を現実と混同する現象が観察されました。

要するに、脳内の「現実信号」(紡錘状回の活動の強さ)が通常よりも高くなりすぎると、存在しないものがあたかも存在するかのように感じられてしまうのです。

では脳はどのようにこの「現実信号」を読み取っているのでしょうか。

脳全体のネットワークを解析したところ、紡錘状回に加え、意思決定を担う前部島皮質などの前方脳領域も関与していることが判明しました。

前部島皮質は、意思決定や自己モニタリングなど「メタ認知」的な働きに寄与する領域として知られています。

実験では、参加者が「今見えているものは本物だ」と判断したときにこの前部島皮質が強く活動し、しかも紡錘状回との間で顕著な機能的結合が認められました。

紡錘状回で生じた連続的な「信号の強さ」の情報(現実信号)を前部島皮質が読み取り、それがしきい値を超えたかどうかを基準に「本物かどうか」を二分的に判定する仕組みだと考えられます。

つまり本物かどうかを脳が判断する時には「知覚からの信号+想像からの信号」が一定以上を超えなければならないのです。

そして知覚からの信号が無くても、想像から十分な信号が発せられれば、存在しないはずの薄い画像が存在すると判定されるわけです。

これら前頭葉の領域はメタ認知、つまり自分の心を客観視する働きに関与すると以前から考えられてきました。今回の結果は同じ領域が『何が現実か』を判断することにも関わっていることを示しています。