研究者らは、この発見が「何が現実で何が非現実か」を見極める脳内プロセスの理解を深め、将来的には精神疾患の診断・治療法の進展につながることを期待しています。

さらに本研究の知見は、仮想現実(VR)技術の改良にも役立つ可能性があります。

人間の脳が「想像」を「現実」と錯覚しないギリギリの境界ラインがどこにあるのかが分かれば、VR体験の没入感を高めつつ現実との区別は保てるような絶妙なコンテンツ設計が可能になるかもしれません。

実際、フレミング教授は2023 年の関連研究でのコメントにおいて「近い将来、脳への刺激やVR技術が非常に強力な感覚信号を生み出すようになれば、現実と非現実を見分けることは我々が思うより困難になるかもしれない」と指摘しています。

現実と仮想の境界を超えない範囲でどれだけ内部信号を増強できるか――今回明らかになった「現実メーター」のしきい値は、今後のVR研究開発にとって貴重な指標となるでしょう。

最後に、今回の研究は「想像」と「現実」のあいまいな関係を脳全体の活動マップとして示し、中位視覚野に“強度メーター”があることを詳細に実証しました。

脳の中位視覚野で検出される現実信号と、前頭前野で下される現実/非現実の判定……この二段構えのシステムこそが、私たちが日々「頭の中のリンゴ」と「目の前のリンゴ」を混同せずに済んでいる理由なのです。

一方でこのシステムが揺らいだとき、人は自分の内部のイメージを現実のものと錯覚してしまう――そんな想像と現実のあいまいさを生み出す脳内メカニズムが、今回つまびらかに描き出されました。

今後この発見を足がかりに、人間の脳に備わる「現実モニタリング装置」の全容がさらに解明されていくことでしょう。

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元論文

A neural basis for distinguishing imagination from reality
https://doi.org/10.1016/j.neuron.2025.05.015