大きく分けて、ゲノムの構造そのものの違いと、DNA配列の重複や欠失による違いが見つかりました。
前者の例としては、染色体の一部分が逆向きになっている「倒位」や、染色体上で位置が丸ごと移動した領域などが各所で発見されています。
例えばゴリラでは、ある染色体上で4.8Mbもの大型のDNA断片が12.5Mb(1250万塩基対)離れた下流に「引っ越し」していたことが判明しました。
ボノボでは、多くの染色体でセントロメア(細胞分裂のときに染色体を引き寄せる要所)を形づくる アルファサテライト DNA(同じ短い文字列が延々と並ぶ配列)が、わずか 10 万塩基(100 kb)に満たない “超コンパクト版” でも正常に働いていることが分かりました。
後者の例としては、セグメンタル重複(数万塩基もの長さのDNA配列が重複した領域)の比較により、各種に固有な新しい機能が判っていないRNA配列(トランスクリプト:転写産物のこと)が次々に見出されました。
(※研究チームによれば、各類人猿ゲノムあたり770–1482のまだ機能が判っていないRNA配列がこれら未踏の領域から発見されており、中にはヒトとチンパンジーで片方にしか存在しないものも多数含まれるとのことです。)
こうした大型の反復領域は旧来の手法では解析が難しく詳細が不明でしたが、長鎖リード解析により初めて全容が捉えられたのです。
免疫や脳に関係する遺伝子群でも違いがみられました。
例えば主要組織適合複合体(MHC)と呼ばれる免疫遺伝子の巨大クラスターは種ごとに大きく構造が異なり、ヒト固有のバリアント(変異型)がヒト特有の疾患に関与する可能性が示唆されています。
また脳の発達や機能に関連する遺伝子にも、人類の系統で大きく変化したものが複数見つかりました。
例えば音声によるコミュニケーション能力に関わるある遺伝子では、ヒトに特有の調節配列が追加取得されており、これがヒトの言語獲得能力に寄与している可能性があります。