実際、研究チームが発見した各種ごとに固有な数百もの新規遺伝子の中には、ヒトが大型の脳を獲得するのに寄与したと考えられるものが既に含まれていることが分かりました。
論文の共著者であるワシントン大学のエバン・エイクラー教授は「セグメンタル重複中に各種固有のタンパク質コード遺伝子が何百も見つかっており、その中にはヒトをヒトたらしめる変化(例えばヒトの脳がより大きいこと)に寄与するものもあることが既に示されています」とコメントしています。
さらに、ヒトと他の類人猿で大きく構造が異なるゲノム領域からは、ヒトにだけかかる病気や人類の進化上の適応形質につながる手がかりも得られています。
例えば免疫系の遺伝子群の違いは、人類特有の感染症への抵抗性や脆弱性と関連している可能性があります。
皮膚や毛に関わる遺伝子の変化からは、人類が裸の皮膚を進化させた経緯に迫れるかもしれません。
味覚や代謝に関する遺伝的差異は、それぞれの食性や寿命の違いとも結びついている可能性があります。
このように、ゲノム上の差異を詳細に洗い出すことで、ヒト固有の生物学的特徴の遺伝的背景が次第に明らかになりつつあります。
今回の研究は、ヒトと最も近い生物である大型類人猿との遺伝的距離を初めて正確に測り直したという意味で画期的です。
その結果明らかになった「15%の差異」は、単に数字が増えたというだけではなく、ゲノムの中でヒトだけが持つ“特別な部分”を炙り出した点に大きな意義があります。
研究チームは「この新しい類人猿ゲノムリソースのおかげで、ヒトゲノム中のあらゆる塩基対について、その進化の歴史を再現できるようになる」と述べています。
ゲノムという設計図を全て埋め尽くすピースが揃ったことで、人類の進化の物語をこれまで以上に詳しく紡ぎ直すことが可能になったのです。
その過程で、人類とは何か、ヒトをヒトたらしめるものは何かという古くて新しい問いにも、新たな答えが得られるかもしれません。